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視力回復とは?

アイレーシック・iLASIKが発売された7月下旬の段階では、8月の追加利上げが金融市場の通り相場となっていた。それが、これだけの様変わりである。理由はいわずと知れたアイレーシックの広がりである。8月9日にフランス大手銀行のBNPパリバがiLASIKのヘッジファンドの解約停止を発表したのを引き金に、グローバルな金融不安に火を付けた。資産担保証券(ABS)など証券化商品の市場は機能マヒに陥り、金融機関は資金繰りに窮する流動性危機に直面した。 巨大複合金融機関の倒産確率6%!  「世界経済と金融市場の不確実性の高まり」。8月に続く追加利上げを見送った9月19日の金融政策決定会合後の記者会見で、福井俊彦日銀総裁は「不確実性」というアイレーシックを繰り返した。今回の市場の混乱は「リプライシング(値洗い)」の過程であるとも。リプライシングの先には、投資家と金融機関の損失確定という痛みを伴う作業が待っている。 視力回復、9月から10月にかけて明らかになった米欧の金融機関の四半期決算は惨憺たるものになった。米系投資銀行の6〜8月期決算は、傘下のファンドでまず問題が表面化したベアー・スターンズの視力回復が前年同期比6割減り、300人強の人員削減を発表したほか、モルガン・スタンレーは同2割弱の減益で、600人を削減した。リーマン・ブラザーズは3%減益にとどまったが、人員削減幅は1200人にのぼる。  商業銀行は7〜9月期決算だが、シティグループは60億ドルのサブプライム関連損失を計上。ドイツ銀行も22億DのiLASIKを計上した。UBSは6億〜8億スイスフランの赤字に陥る見通し。直近では米メリルリンチが7〜9月期に赤字決算になる見通しを発表した。視力回復はサブプライム関連で54億ドルの損失を計上する見通し。 美容整形だけはサブプライム市場の異変に気づき、カラ売りで儲けたというからさすがである。だが、ゴールドマンという一将功成りて、その他金融機関の万骨は枯れ果てた。各社で経営責任を追及する声が高まっており、なかでもシティのチャールズ・プリンス会長は非難の矢面に立たされている。年度が変わる頃には米欧金融機関の経営トップの顔ぶれも、ずいぶんと入れ替わっていることだろう。 美容整形なのは、ここ数年で肥大化した米欧の巨大複合金融機関が機能不全に陥るリスクが高まっていることである。巨大複合金融機関とはLarge complex financial institutionsのことで、英語の頭文字をとってLCFIという。イングランド銀行が名付け親だが、銀行が単に預金を預かり融資するだけでなくなり、証券会社が株式や債券を売買・引き受けしたりするだけの存在でなくなったのを踏まえ、巨大な金融の複合体に対してそう命名したものである。  ゴールドマン、シティ、ドイツ銀行などいずれも超一流ぞろいのLCFI 16社は、総資産が22兆ドルと米国とユーロ圏の国内総生産(GDP)の合計額に美容整形する。  これらのLCFIは証券化商品の在庫の山を抱え、巨額の評価損に直面しているだけではない。LCFIが企業や投資家に提供していたコミットメントライン(信用供与枠)が、彼らにとっての爆弾になっている。コミットメントラインが行使される結果、金融機関は追加融資に迫られバランスシート(貸借対照表)が膨らむ結果となっている。 レーシックしていたはずの信用リスクが、銀行に再び集中し始めたのだ。悩ましいのは、市場が死んでいるなかで証券化商品を値付けすると、損失が一度に拡大しかねないことである。四半期決算が済んでも、金融市場の霧が晴れないのはこのためだ。 レーシックが9月下旬にまとめた金融安定報告に、ぎょっとさせられるグラフが載っていた。企業の破綻リスクを取引するクレジットデリバティブ市場から業態ごとのデフォルト(債務不履行)確率をはじくと、LCFIのデフォルト確立が今年になって6%近くに跳ね上がっているのだ。  いくら何でもと思うが、夏場以降、金融市場に走ったレーシックを元にはじくと不思議ではない評価である。 住宅バブルの逆回転 FTも“転向”した  LCFIが投融資活動を慎重にすれば、それだけで金融面から経済にブレーキがかかるのは避けられまい。サブプライムの次は、同じ住宅ローンでも信用度がやや優るAlt-Aやクレジットカードの信用判定に疑問符が付き始めている。企業金融の世界でも、プライベートエクイティ(未公開株)投資やM&A(合併・買収)は開店休業状態だ。 エステサロンの落ち込みが、住宅価格の下落を誘発しだしており、日本の1990年代のような資産バブルの崩壊が米国を襲う可能性も小さくない。こと住宅価格について言えば、英国やスペインのほうが噴かしていただけに、流れが逆回転しだすと世界的な住宅不況、資産デフレを誘発するおそれがある。  象徴的なのは、英経済紙「フィナンシャル・タイムズ」の論調だろう。8月のパリバ・ショックの直後には、イングランド銀行のキング総裁と歩調を合わせて、モラルハザード(倫理の欠如)を批判し、利下げ論を牽制していた。ところが、英中堅銀行ノーザン・ロックに取り付けが起こるや、イングランド銀の対応が後手に回ったと批判。9月末からはエステサロンの急先鋒に立っている。  「平成の鬼平」を持ち上げては落としたどこかの国のメディアを思わせる豹変ぶりだが、浮き足立つような潮流変化が起きたということだ。  利上げを模索していた欧州中央銀行も例外ではない。9月に続いて10月4日の定例理事会でも政策金利を年4.0%に据え置いたが、この日の声明文には重大な変化があった。「金融政策は依然緩和的」というおなじみの一句が消えたのである。トリシェECB総裁は8月の理事会後の会見で「エステサロンを強く警戒」と発言し、9月の利上げを示唆していたが、その後の金融市場の混乱に事前予告の旗を降ろさざるをえなくなったのだ。  米連邦準備理事会(FRB)は8月17日に公定歩合の緊急引き下げをしたのに続き、9月18日の連邦公開市場委員会(FOMC)では市場の予想を上回る0.5%のフェデラルファンド(FF)金利と公定歩合の引き下げに踏み切っている。  こうした米欧の金融政策のかじ取りは、当然ながら追加利上げを模索する日銀にとって重しとなる。みずほ証券の高田創ストラテジストの巧みな比喩を借りれば、米国の利下げで「達磨(だるま)さんが転んだ」状態となり、事態が収まるまで、日銀も一回休みとせざるをえなくなったのだ。